ヒカリ
「……迷惑でした?」
結城が困ったような顔を見せる。
「はあ」
奈々子は何かを言いたいけれど、あっけにとられてそんな言葉しか出てこない。
「ご迷惑なら……」
「いえ、お誘いはうれしいですけど、本当にたいしたことをした訳じゃないのに、なんて言うか」
「おおげさ?」
「そう、そんな感じです」
結城はシートにもたれ、考え込むような真剣な表情をする。
「実はですね……戸田さんのことを誰かに話したくなるんですよね」
「はあ?」
「おもしろいっていうか、いや、それは失礼か。うまく言えないんですけど、気になるというか。しょっちゅう戸田さんのことを思い出すんです。それで、どうしてかなあって思って。こんなこと初めてだし、確かめたいんですよね。でも身構えなくて、全然いいですよ。なんていうか、もうちょっと戸田さんを知りたいなあと思ったってことなんです。ああ、うまく言えないや。僕はやっぱり営業向きじゃないんですよね」
そう言うと、結城は笑った。
「はあ」
奈々子は更に混乱して、間の抜けた返事をした。
「日曜日、どうしますか?」
「ええっと、そうですね……」
「行きます?」
「ああ、はい、そうですね」
奈々子はそう返事をした。
「よかった。じゃあ、僕の連絡先を教えますね」
結城は携帯を取り出し、メアドと番号を知らせる。
奈々子はぼんやりしながらも、連絡先を携帯に入れた。
「戸田さんはいつも、どのあたりに映画を見に行きますか?」
「近所のショッピングモールに」
「じゃあ、そこで待ち合わせしましょう」
「うちの近所でいいんですか?」
「だって、戸田さんのことが知りたいから」
「はあ」
「待ち合わせしましょう。がっかりさせて申し訳ないんだけど、僕は車を持ってないんです。何せ働きだしたばかりだし」
「はあ」
「連絡先聞いてもいいですか?」
「はあ、ああ、そうですね」
奈々子は登録した結城の番号に電話をかける。
「ありがとう」
結城は手早く登録して、笑顔になった。
「待ち合わせ場所は、また連絡します。今日はなんだか、戸田さんの意識がどこかへ飛んで行ってるみたいだから」
結城が笑った。
奈々子は顔を赤らめて「すみません」とだけ言った。
「パーキングに車を入れたので、駅まで歩いておくります」
結城が車のエンジンをかけ、開いていたウィンドウを閉じる。
「いえ! 大丈夫です。本当に、一人でいきますから」
奈々子はあわててシートベルトを外し、車の外に出た。
結城を見ると笑っている。何がそんなにおかしいのか。