ヒカリ
「じゃあ、また」
結城はウィンドウを再び開き、奈々子に手を振った。
奈々子は小さくお辞儀をして、その場を逃げるように歩き出した。
背中に視線を感じる。
いや、気のせいかもしれないけれども。
とにかく全身があつくて、ふらふらした。
駅につくと、電車が到着したのか、たくさんの通勤客が降りてくる。
その人波を縫って改札にあがると、奈々子はやっと一息ついた。
携帯を取り出し、登録した結城の連絡先を見る。
「どういうこと?」
思わず口に出た。
「からかわれてる?」
珠美に電話をかけようとして、思いとどまった。
「線をひくのよ」
と珠美は言った。
それがきっと最善だ。
でもその線を越えようとしている。
「いいの? 本当にわたしは出かけていいの?」
ホームで電車を待つ間、何度も自分に問いかけた。
ライトに照らされた結城の顔。
自分に笑いかけたあの顔。
奈々子はとても自分が思いとどまれるとは思えなかった。