ヒカリ
結局、仕事に着ていくような、膝までのブルーのワンピースに、レギンスという代わり映えしない格好に落ち着いた。
バスでショッピングセンターまで行く。
待ち合わせはフードコート前のベンチだ。
「今からこんなにどきどきしてて、今日一日もつかな」
奈々子は不安になった。
ショッピングセンターのエントランスを入ると、真っ先に結城が目に入った。
ベンチに腰掛けている。
ボーダー柄のシャツにジーンズ。
真っ白なスニーカー。
何でもない格好なのに、なんて目立つんだろう。
結城の前を通りすぎる女性達が、一様に振り返る。
結城はその視線を気にするでもなく、スマホで何かを見ている。
「ああ、このまま帰りたい」
奈々子は極度の緊張から後じさりした。
すると結城が目をあげて、奈々子をみつけた。
手をあげる。
奈々子は自分に気合いを入れてから、お辞儀をした。
「おはようございます」
結城は近づいてくると奈々子にそう言った。
「おはようございます」
奈々子も言った。
「何の映画を見ます?」
結城はベンチ前に設置されている映画のポスターに近づいて、そう言った。
「ラブコメかハリウッド超大作ですよね」
「あの、須賀さんの好きなもので」
奈々子は下を向いた。
「えっと、それじゃあ……これは?」
結城はポスターの一つを指差す。
それは有名女優がコミカルな演技で評判の作品だった。
「はい。それで」
「上映時間は……あと三十分ですね。行きましょうか」
結城は奈々子を促して歩き出した。
ショッピングセンターは週末ともあって、とても混んでいた。
大型スーパーも併設されているので、食料品を買いに来た主婦達もたくさんいる。
カートいっぱいに野菜を入れたおばさんも、子供の手を引いている若い母親も、結城を見るとびっくりしたように立ち止まる。
奈々子はなんだか身の置き所がなくて、ますます一層下を向いた。
「戸田さん」
結城が言う。
「敬語やめてもいいですか?」
「はい」
「戸田さんは友達から、なんて呼ばれてる?」
「えっと、奈々子」
「いきなり奈々子って呼び捨ては、なんだかしっくり来ないから、じゃあ、奈々子さん」
「はあ」
「僕のことは呼び捨てでもいいよ」
「え?」
「結城って」
「それは……無理です」
「そう? じゃあ、好きに呼んで」
エスカレーターで三階にあがる。
結城は楽しそうに周りを見ている。
奈々子は結城の後ろをついて歩いた。
なんだか横に並ぶのは恥ずかしく、できれば二歩、三歩後ろを歩きたかった。