ヒカリ
映画館を出ると、人ごみがすごかった。
お昼頃にもなると、ショッピングセンターは相当混雑してくる。
「お腹減った?」
結城が訊ねた。
「はい」
「何食べたい?」
「なんでもいいです。須賀さんのお好きなもので」
「そうだな……じゃあ、マック」
「マクドナルド?」
「俺、好きなんだ」
「へえ」
二人はショッピングセンター内の混雑した店内に入る。
奈々子は「デートでマックはないよな」と考える。
やっぱり、奈々子と友達になりたいと思っているのかもしれない。
結城は「ここはごちそうする」と言って、ハンバーガー代を払ってくれた。
やっぱりデートじゃないや。
マックをごちそうするって言われても、ぴんとこない。
そう思うと、奈々子は少し気分が楽になってきた。
めちゃくちゃ張り切っておしゃれしなくてよかった。
恥ずかしいことになってたかも。
奈々子は胸を撫で下ろす。
席に着くと、やはり女性客はちらちらと結城を見ている。
結城は平然とポテトを口に運んでいた。
奈々子はアイスコーヒーを飲むと、再び下を向いた。
周りにいる人々に、ただの友達ですと大声で言いたいくらいだった。
「顔あげて」
結城が言った。
「え?」
「顔が見たいから」
奈々子はとたんに顔に血が上る。
「ポテトってどうしてこんなにおいしんだろう。一時期、また食べたくなる薬がかかってるっていう、馬鹿みたいな噂あったよね」
「……」
奈々子は返事をできなくて、再びコーヒーを口にした。
「これからどうしようか」
結城が言った。
「須賀さんは何がしたいですか?」
奈々子はやっと顔をあげて、そう言った。
「そうだなあ。奈々子さんはここでいつも何してる?」
「洋服を買ったり……」
「じゃあ、洋服を買おう」
「須賀さんの好きそうなブランドは入っていないかもしれませんよ」
「ユニクロないの?」
「ユニクロ?」
「俺、ユニクロ好き」
「はあ」
「このジーンズもユニクロ」
「ええ? そんな風には見えないですけど」
「みんな、俺がすごいブランドを着てるように思ってるんだよね」
「須賀さんが着ると、なんでもそう見えちゃうんですよ」
「俺をなんだと思ってるんだろうな。すごい一般人なのに」
「特別な一般人だと思ってるんじゃないですか?」
「なるほど」
結城はにやりと笑った。