ヒカリ
しばらく二人でショッピングセンターをぶらぶらと見て回る。
CDショップで今流行っているポップスについてしゃべり、本屋で行きたい旅行先について語った。
奈々子の緊張も徐々にとけていく。
手を握られるのも、慣れて来た。
自分のテリトリーにいることが、奈々子を安心させているのかもしれない。
ふと窓の外を見ると、夕焼けが見える。
気づくとすでに夕方の五時だ。
結城は腕時計を見てから「これからの予定は?」と聞いて来た。
「特にないです」
奈々子は答えた。
実はかなり歩き回ったので、足も疲れていて休憩したかった。
「じゃあ、ごちそうタイム。まだお礼をしてないから」
「さっき、ごちそうしてもらいましたよ」
「そうだっけ? 今度はアルコール入りでごちそう」
結城はそう言うと、エスカレータを下って行く。
ロータリーにつくとタクシーに乗り込んだ。
「目黒まで」
結城はそう言うと、シートに身を沈める。
ユニクロのデニムを着るけど、移動はタクシー。
倹約家なのか、浪費癖があるのか、奈々子の常識とは完全にずれていた。
高速に乗って、都心へと入って行く。
空に広がる雲が、オレンジ色に染まって、やがて夜が訪れる。
不思議と沈黙が苦しいとは思わなかった。
奈々子は話しが途切れてしまうのが嫌いだ。
相手が楽しんでいないんじゃないかと、不安になるのだ。
男性と出かけることがあったとしても、いつもそれで必要以上に緊張するし、疲れてしまう。
結城は外の景色をみている。
奈々子の左手の指先を握ったままだ。何もしゃべらない。
でも奈々子には居心地がよかった。
やがて目黒の駅が近づいてきた。
結城は脇道にそれるようドライバーに告げると「ついたよ」と言った。