ヒカリ
結城は赤ワインを手にとる。
グラスを支える手は大きく、指は長い。
手首はよく見ると男性的でしっかりとしているけれど、手のひらの大きさで全体が華奢に見えた。
「お酒は何が好き?」
結城はグラスに口をつけながら訊ねる。
「ええっと、ワインも好きですけど、飲み過ぎると頭が痛くなります。今日はほどほどを心がけます。日本酒も甘くて好きだし、あ、ビールも好きです」
「結構お酒好きだね」
「味や雰囲気が好きで。基本は楽しいお酒です。須賀さんは?」
「うん、あんまり酔わないんだよね。ちょっとふわふわするぐらいで。だから飲まなくてもいいかな、と思うけどね。あ、俺はどっちかっていうと甘い物の方がすきかな。ケーキとかプリンとか」
「へえ」
「この近くにおいしいチーズケーキのお店があるんだ。同居人がよく買ってくる。こんど食べようよ」
奈々子は今度っていつ? と思いながら「はい、楽しみです」と答えた。
「同居人って、幼なじみですか?」
「うん。同い年の男。女の子じゃないよ」
「知ってますよ。この間言ってた」
「うるさいんだ。奥さんみたいにいろいろ言ってくる」
「一緒に住むなんて、仲がいいんですね」
「……どうかな」結城はそう言って笑う。
「何してる人ですか?」
「幼稚園の先生」
「へえ」
「今度会わせるよ」
結城は窓の外を見て、ワインを飲む。
照明がが深い紫色をテーブルに写す。
きれいだ。
「奈々子さんは男の人といると、いつもそんなに緊張するの? それとも俺と一緒だから?」
「え?」
グラスにのばした手がぴたりと止まる。
「……そんな風に見えます?」
「見える」
結城は笑って奈々子を見てる。
「たぶん、いつも、こんなです。でも、今日はかなり緊張してるほうで」
「リラックスできない? 背筋はまっすぐだし、俺の動きや言葉にいちいち反応してる」
「はあ……それができれば、もっと楽しめると思うんですけど。昔からなんです。男の人、苦手って訳でもないんですが……緊張しちゃって」
「ずっと警戒体勢にいるのかな? 何かされると思って。嫌がる子には何もしないよ」
「はあ……」
奈々子は「何もしないんだ」と思いながら、曖昧にうなずいた。
「歳はいくつ?」
「二十六です」
「じゃ、俺より一個下なだけだ。友達だったら? 女の子の友達みたいにさ、気軽に話したりできない? やってみてよ」
「ええ?」
「俺、幸い、女みたいな顔してるしさ。結城って名前も、女の子みたいでしょ? 『結城、ワインおいしいね』とかなんとか、言えない? ほら」
そういって、結城は奈々子を促す。
「ゆ、結城……さん」
「『さん』つけないで」
「結城、あの……」
奈々子はなかなか先が出てこない。
見ると結城がくすくす笑ってる。
「からかってます?」
「ちょっとだけ」