ヒカリ
奈々子は憮然とした顔をした。
「ま、少しずつね」
結城はそう言うと、ピクルスを口に入れた。
「須賀さんは、随分慣れてますよね」
「何が?」
「こうやって、女性と会話すること」
「そうかな?」
「そうですよ」
「俺と話してて、楽しい?」
「そうですね」
「よかった」
結城はにこっと笑う。
「やっぱり最初はうまくしゃべれなくてね。基本的に誰かと会話することが苦手なんだ」
「そうは見えませんけど」
「がんばってる」
「はあ」
「でもたまに疲れる」
「そうですか」
「女の子と一緒にいると、たいてい女の子が一方的にしゃべる。ああだ、こうだ、こう思った。俺はうんうんとうなずいて、いつキスしたらいいかなあとか、考えてる」
「はあ」
「今も考えてる」
「はあ?」
「ウソ」
「はあ」
「さっきから『はあ』しか言ってない。本当に俺と話してて楽しい?」
「えっと、ちょっと戸惑ってます」
奈々子は素直にそう言った。
「いつもだいたい、女の子が話しかけてくる。俺は来るもの拒まずだから、楽しく話して、楽しく食事して、キスして、セックスして」
結城がちらっと奈々子を見る。
「大学時代は、とにかくたくさんの女の子と付き合った。付き合ったっていうのは、そうだな、一晩を楽しく過ごしたってこと。女の子はだいたい、俺を隣に連れて歩くと、まるでブランド物のバッグを持ってるみたいに、自慢するんだ。俺の意見はおかまいなしで、いろんなところに連れて行かれる。それもまあいいかなあ、女の子を抱ければ、なんて思ってたけど、そのうち嫌になっちゃった」
「はあ」
「俺から誰かを誘ったのなんて、本当に数えるくらいしかないんだ」
「……そうですか」
奈々子は大学時代の結城を想像すると、おかしな汗が出てくる。
俺は遊び人だって、今告白してるわけ?
「刺激が強すぎたかな」
結城はそう言って頭をかいた。