ヒカリ
十
今日は夏祭りだ。
夕方涼しい時間から始まる。
職員達は準備に余念がない。
園庭の真ん中には大きな櫓が立ち、幼稚園の各クラスには射的やくじ引きなどの余興がそろう。
庭に面したクラスのひまわり組では、焼きそばの屋台が出る。
毎年有志で、子供達の父親が屋台を手伝う。
三時ごろには、父親達もそろうはずだ。
それまでにできる準備はしてしまわなくてはならなかった。
子供達は、この日のために、盆踊りを練習してきた。
飯田先生のピアノに合わせて、子供達の小さな手が右へ左へとゆらゆら揺れた。
うまくできる子も、そうじゃない子も、一様に真剣だった。
今日の本番が楽しみだ。
本番と言えば、拓海は今日のために太鼓の練習を毎日してきた。
ただ叩くことはすぐにできたが、強弱をつけてうまく叩くのはなかなか難しい。
拓海は少々緊張していた。
ひまわり組の中に折りたたみ式の机を出し、コンロや調理器具を用意する。
ゆきも腕まくりをして、重い荷物を運ぶ。
実際の調理は父親達が行うのだが、これがその年によって随分味が違う。
はずれの年はたくさん売れ残ってしまい、先生たちががんばって食べるようだ。
拓海は今年の父親達がうまくやきそばを作れますように、と本気で願った。
拓海はゆきと話をしたかったが、なかなかチャンスがない。
仕事帰りに食事に誘えばいいだけの話しだが、先日のことを思い出すと気が引ける。
ゆきが他の先生たちと話をしているのを耳にしたが、まだ友達の家にいるようだ。
拓海のバッグには結城から借りたお金がずっと入っている。
ゆきが自分のアパートに帰る前に、引っ越しをさせたかった。
「休憩しよう」
飯田先生が声をかけた。
ゆきと拓海は手をとめる。
「何か飲み物買ってきましょうか」
拓海が声をかけた。
「そう? ありがとう」
飯田先生が眼鏡を直しながら言う。
「他のクラスの先生たちにも聞いて、買って来てもらおうかな」
「わかりました」
拓海はうなずく。
ゆきが
「きっと重くなりますので、私もいきます」
と立ち上がった。
各クラスの先生たちに希望の飲み物を聞いて、二人はスーパーまで買い物にでかけた。