優しい風の中で
それは、あの紅葉の写真。

「あ、それ」
彼女は嬉しそうに言った。
僕たちが出会った時の、記憶。思い出がモノとして残ることが、こんなにも嬉しいことだったなんて知らなかった。
「あの時のシンジの顔が忘れられない」
可笑しそうに話す風子を見て、居心地が悪くなった。
「君がいきなり出てくるから」
小さく吐くと、さらに嬉しそうな顔をする。
「カメラマンがいるって思ったら嬉しくなっちゃって」

「ふぅん…今も?」

君の目的は、僕じゃなくてカメラ?
商売道具に嫉妬してしまうなんて、僕は相当の馬鹿だな。

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