神様と愛語
震えが止まらない。
薄い布団を精一杯手繰り寄せ体に巻き付かせてみても暖はとれない。
苦しい寒い、寒い、苦しい。
「ごほっ、こほ、ごほっ」
喉元から痛々しい咳が漏れる。
関節の節々が悲鳴を上げ、寝返りをうつだけでギシギシと軋む。
神の領域だからといってやはり自分は人間なのだと再認識させられている気分だ。
お前は余所者、部外者、ただの人間。
風邪の時は嫌でも気分はネガティブ方面に下っていく。
「失礼致します」
声がすればすっと襖が開き麗が入ってきた。
手にはお盆を持っているのを見れば、食事を運びに来たのだろう。
ガタガタと震えながら上半身を起こし、お礼を言おうとした瞬間――――、
「うっ、うえっ、うぶっ……!」
あまりにも強烈な匂いに体が拒絶反応を起こし、布団の上に嘔吐してしまった。
人間界では嗅いだ事もない匂い。
一言で表せば悪臭だ。
「う、……っく……うぇ」
口を手で覆ってみたが状況は何も変わらない。
布団の上には嘔吐物が散乱し、風邪で意識朦朧としている顔は酷く醜いだろう。
麗は持っていたお盆を畳の上に置くと、手際良く布団を丸め部屋に備えつけてあったタオルを寄越した。
「す、すみま、せ」
「穢らわしい」
麗は軽蔑の眼で一瞥くれると、丸めた布団を抱え部屋を出て行った。
ぼそり、呟かれた言葉。
それは紛れもなく私自身に向けられた言葉。
嘔吐物が穢らわしいのではなく、お前が穢らわしいのだと、込められていた。
ぞっとした。
好意でもない、敵意でもない。
存在そのものを否定される言葉に、暫く放心するよか他なかった。