神様と愛語
適切な処置もなく薬もなく。
自然治癒の力だけではどうあっても早急な回復は見込めなかった。
2週間寝込み続け、漸く健康体を取り戻したのは良かった、良かったが。
「恥を知れ。貴様なんぞが体調不良を訴え、しかも長い時を無駄にしおって。一度だけで御子を身籠る身体ならまだしも、そうでないならば一日一日が如何に重要か心得ておけ」
「申し訳御座いませんでした」
「だいたい貴様の身体が悪ければ御子にも影響するのだぞ。形成される前に貴様に死なれては元も子もない。二度と病なんぞに掛かるな」
「心得ておきます。ご無礼をお許し下さい」
清蓮のお説教が待っていた。
いつも通り、謝罪を口にするが彼の怒りは収まらず、1時間は正座を続けている。
そろそろ足に限界を感じるが、此処で崩したら更にお怒りを買うのは目に見えているため、必死で我慢する。
「雨龍様は視察に旅立っておられる」
いくらか安定した声色にお説教モードが緩和した事を悟り、心でほっと溜息を漏らす。
「帰還されてから情を交わしてもらう。それまで邪魔にならぬよう息をしていろ」
「御意のままに」
深く頭を下げれば、満足したのか、長い溜息を吐き部屋を後にした。
「ふっ、ぐっ……! あー、あ、くっ」
気配が消えてすぐ、限界を迎えていた足を崩せば案の定あの言葉にならない痺れに襲われた。
ごろん、とその場に崩れ落ちる。
『お、姉ちゃん、さては痺れてんなぁ? ほれ、ほれ、どうだ? ビリビリっすかぁ? え? ぶっ、くくくっあははは』
弟の清盛(きよもり)の声が聞こえた。
幻聴なのは分かっていた、脳内で再生された声だと言う事も理解している。
だが考え出したら止まらなくなっていた。
もう何日家族の声を聞いてないのだろう。
ちゃんと生活しているだろうか。
母さんのご飯は壊滅的だけど、ちゃんと食べられているだろうか。
扉の修繕が終わる前に此方に来てしまったけど、父さんは上手く直せただろうか。
清盛は畑仕事を放り出して遊びほうけていないだろうか。
――――会いたいなぁ。
芽生えてしまった余計な感情に、ぐっと拳を握った。
「……早く子供作って帰らなきゃ」
ぼそり、と呟いた声はやはり木霊する事なく吸い込まれていった。