神様と愛語
緋蛇は零れ落ちる感情を救うように、雫に唇を落とす。
ちゅ、ちゅ、と淡い音を立てる。
「泣くが良い。思う存分、泣け。此処には姫を責め立て、苦しめるものはおらん」
なんて、なんて心地よい言葉なんだ。
心の何処かでいつも欲しがっていた言葉。
苦しかった、悲しかった。
気の休まる場所なんて何処にもなかった、休めちゃいけなかった。
誰一人味方なんていない、それどころか敵意を剥き出しにして傷をつけてくる事のほうが多い。
疲れた、帰りたい、と望んでも帰る方法も分からず、神様に申し出る勇気もなかった。
――――死んだように、生きてた。
それがいま、生を受けた気がした。
崩れ落ちる体を支えるように緋蛇は体を抱きしめてくれた。
母がしてくれたように背中を柔く叩きながら。
大声を出して泣いた。
みっともないと自分自身思ったが止まらなかった。
「ほう、志に乃で志乃か。うむ、良い名じゃ」
「あ、ありがとうございます」
ぱんぱんに腫らした瞳をじっと見つめられ、にこりと微笑まれる。
……居た堪れない。
赤子か、と突っ込みをいれてしまいたくなるほど大き泣きし、その間、ずっと緋蛇に背中を擦ってもらい、優しい言葉を何度もかけてもらった。
彼は涙が止まるまで、何度も何度も零れ落ちる涙を指で掬い上げては、壊れ物を扱うかのように頭を撫でてくれた。
「あ、あの、緋蛇様はわざわざお礼を言う為にだけに此処に?」
「うむ、そうじゃ。人間の女子につい驚いて威嚇してしもうたが、雨龍殿が御子を儲けると聞いておったでな、合点いったわけだ」
「そう、でしたか」
同じ神様でも個体差はあるんだろうか、こんなにも優しいのはどうしてだろう。
泣いた後のぼんやりした脳内で考える。
だめだ、今考えても答えは出てこない。
すん、っと鼻をすする。