神様と愛語

――――
――



「離れの掃除……ですか?」


目の前には何を考えているか分からない笑顔と眉間に深く皺を作った顔。

翠香と清蓮だ。



「そう。もうずっと使われてない家でね。君も雨龍様がいらっしゃらないとすることもないでしょう? だから実龍様が気を使ってくれてね」

「貴様が役立たずなばかりに、妹君にも迷惑をかけおって」

「まあまあ、清蓮。離れの掃除を日々の日課にしたらどうかな? 暇を持て余すよりいいと思うよ」



にこり、と笑った顔は拒否することを許さない、と物語っている。

最初から拒否権などないから頷く準備は出来ている。



「仰せのままに」

「いいか、汚い体のまま帰ってくるな。雨龍様が視察や業務から戻られた際は直ちに帰還しろ。いいな」

「はい」



むしろこの館にいるよりは気が楽だ。

と、思っていた私を叩いてそんなことないと正気に戻したい。

海神の館から歩いて30分。

出てきたのは“ずっと使われてない”処ではない。

廃墟と化した家が一軒佇んでいる。



「……これを掃除しろと。したところで何の意味があるんだろう」



周りを見れば草がいたるところに生い茂り、むしるのに相当な時間がかかりそうだ。

やると言ってしまった以上、やるしか答えはない。

用意されている物も最小限。

手袋は……、どうやらないようだ。

手でこの草むしりは辛いなぁ、なんて思いながら草に手を伸ばす。



――――どれくらい時間が経ったのか。



「―――……っ!!」



弱ってきた手の皮膚が破れ、血が滴る痛みで顔を上げる。



「いたた」



ぽたり、ぽたり。

まるで涙のように流れる赤い雫を感情のない目が追う。

何をやっているんだろう、私。

ずっと考えたら負けだと思ってたけど、緋蛇と会って埋めていた感情が顔を出した。

だいたい、子供を産むのは私なのに、どうしてここまで手酷い扱いを受けるのか。


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