神様と愛語
愛 其の肆
愛 其の肆
目の前の赤い瞳は私の手の傷をまじまじと眺め、そして眉を垂らす。
「なんと、綺麗な手が。痛そうだのう」
ほぼ日課となりつつ離れの掃除の最中、なんと約束を守って緋蛇が会いに来てくれていた。
顔を見た瞬間、驚きと喜び、そして安堵の息が漏れた。
「皮膚が何度か再生して、皮が硬くなったので最近はあまり切れなくなりました」
「そういう問題ではないっ! 波津」
「そうですね、次回訪れる際は軍手をご用意致しましょう」
「え、いやいや、そういう訳には……」
いいのだ、と緋蛇が止める。
「余がしたくてやってる事だ。……それとも志乃は迷惑かの?」
零れ落ちそうな大きな目に覗かれる。
神様に失礼だと分かっていながらも、この愛らしい顔を可愛いと思う気持ちを塞き止められない。
逃げるように俯いて、分かりました、と頷く。
「有難くご好意に甘えさせて頂きます」
「うむうむ」
「ですが、庭の草むしりももうあと数日で終わるかとも思います」
額の汗を手の甲でぬぐいながら、あたりを見回す。
離れの掃除を仰せ付かってから半月。
毎日無心で草を引き抜いていた所為か、無法地帯と化した草の庭は綺麗になっていた。
「……余もここの場所は知らんだが、相当荒れていたのであろうな」
緋蛇が再び眉を落とし、私の荒れた手を見て言う。
「お二人とも」
そんな中、いつの間にか席を外していた波津の声が遠方より聞こえ顔をあげる。