神様と愛語
おずおずと顔を上げると、やはり美しく神々しい光が目に入る。
だが先ほどよりは恐怖感はなく、心の奥で安堵の息を漏らす。
「ところで父上、どうして此方へ? 訪問の件なら、雨龍殿への許可も取っておりまするぞ」
「ん。まあ、父として息子を宜しく頼む、と言いに来たのもあるしの。あとはもちろん、緋蛇が気にかけている想い人を見に来たのだ」
すっと目を細め、慈しむような眼差しを向けられる。
柔らかな美しい白髪が髪に揺れる。
隣には同じようにして微笑む緋蛇の顔。
「……愛い娘ですぞ。言葉遣いも礼儀作法も心得ておりますし。なにより余に怯えず、怪我を省みず助けてくれた心優しい娘なのです」
「そうであったな。余からも礼を申したい。息子を助けてくれて感謝するぞ。まだまだ半人前な上、無鉄砲で向こう見ず、だが、余の大事な宝物なのでな」
緋蛇は桜蛇の言葉にむっとしつつも、最後の言葉に照れくさそうに視線を落とす。
こうみると年相応にも感じられる表情だ。
「いいえ、そんな、その、特別なことはなにも」
「して、そなたは館から離れた場所で何をしておるのだ?」
こてん、と首を傾げられると絹のような髪が揺れる。
「あ、龍神様が、よ、よる、呼ばない限りはすることがないので。……館の方が仕事をくれたのです」
物は言いようだ。
客人として受け入れられていなかったのだから、むしろ奉公しにきたようなものだ。
自分の言葉にふ、と心で己を嗤う。
「ほう、この離れは……そうか。ふむ」
桜蛇はすぅ、と目を細め、未だ手付かずのまま、奥にある家屋を見る。
「昔のことを掘り返すのも芳しくないのだがの。……此処は昔は彼岸花が咲き乱れ、人の笑い声が集まる美しい所だったのだ。あそこには池もあってな、荘厳な鯉が泳いでおった」
今は昔のことよ、と懐かしむような少し悲しげな瞳を伏せた後、目じりを下げる。
一つ一つの動作が美しく映像を見ているかのような不思議な気分になる。
そしてそんな過去がこの場所にあった事に驚きつつ、年月を感じた。