神様と愛語
3か月前、龍神を祭る龍神祭が催された。毎年の事ながら盛大に執り行われ、それは無事に終わるかのように見えた。
龍神本人が現れるまでは。
彼は祭の最終日に突然、祭壇の上に供を連れ現れたのだ。
滅多に拝む事のない龍神の登場に息を飲むもの、奇声を上げるもの、様々いた。
そして波乱を呼ぶ言葉を供の一人が口にしたのだ。
『この度、龍神である雨龍夜刃神様が子孫を残される事になった。さしてはこの国の女を母体とするべく、此方に参られた次第である』
後々聞かされた話だが、今年から再来年までが龍神の力が最も強大化する特別な年。
その年に子を作れば、国の繁栄に繋がり、秩序の均等を守り、そして尚、龍神の跡取りとしても生まれてくる子も十分な力を持つのだと言うのだ。
神同士で子を成す事は出来ない為、人間の女に産ませると言うもの。
生まれた子は神と人間のハーフと言う訳ではなく、子が宿ったその時から、人間の細胞を神の細胞が喰らい尽くすのだ。
その為、生まれた時には 神 として生を受ける。
何百年に1度ある年らしく、無論、民たちはそんな習わしなど体験した事がない。
だが、神の子を産めるなんてなんという名誉だろう、と民たちは歓喜し、是非とも、うちの娘を、と喜んで女の提供を承諾した。
承諾せずとも神のご意見に逆らえるはずもないのだが。
例に漏れず、私もその対象になったのだ。
祭自体不参加だった私がそれを人伝に聞き、笑っていたのがもうすでに昔のように感じられる。
ご覧の通り、白羽の矢が立ったのはこの私。
最初は嘆き、泣き喚いて辞退を申し入れたが、 こんな名誉は事はない 、と家族たちはにっこり。
今では早く子供を作って帰ろう、と達観した。