神様と愛語




「志乃様」



未だ畳から顔を上げられずにいたが、呼ばれた名前に重たい頭は難なく持ちあがった。



「はひ」



驚きのあまり裏返った声に恥ずかしく顔を赤めれば、目の前にはこれまた綺麗な女の人。



「今日から志乃様のお世話係として命を受けました。麗(れい)と申します」

「あ、よろしくお願いします」



会釈程度に礼をされ、同じように礼をする。それから部屋に案内され、何かあれば御呼び下さい、と去って行った。





残された部屋に溜息を吐く。質素な部屋だ。

布団、机、三面鏡、必要最低限のものしか置いていない。
 
それもそうか。

この神の領域からして、私は“余所者”だ。

初めから高待遇など期待していなかったが、実際に経験すると辛いものだ。





事の説明をしてくれた龍神の供の人も、今の麗も、皆冷やかな瞳で此方を見る。

言葉にしなくても伝って来る疎外感。

 “お前の様なものが、神聖な神の領域に”、顔に書いてある。

歓迎する気がないなら初めから子孫なんて残すな、と悪態の一つでも着きたい所だが、そうはいかない。



相手は神様だ。



耐え忍ぶ以外、方法はない。

逆鱗に触れて殺されでもしたら、意味がない。

ぽっかり浮かぶ月を見上げ腹に溜まった憤りと一緒に溜息を吐いた。





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