神様と愛語
* * *
冷たい瞳が此方を射る。
恐怖と言うより、またか、と呆然とする方が多くなった。
屋敷に滞在して早1週間の時が流れた。そりゃ慣れもする。
「今日で洗礼の儀は最後だ」
「はい」
話す事すら面倒くさそうな声が告げる。
龍神の供の一人、清蓮(せいれん)だ。
この1週間、人間である私は神と交わる身体にする為に洗礼に専念していた。
身体は清められて行くのに対し、心の健康は全くと言って改善されない。
どんよりと分厚い雲が常に心を覆っている中、態度に出さないように努めるのは辛い。
今もそうだ。無愛想で、態度も悪いこの男に嫌な顔しないようにするのが精一杯。
「これに着替えを済ませ、生命の滝に来い」
「承知致しました」
投げつけるように薄く白い行衣を寄こすと、鼻で嘲笑う様に息を吐き、姿を消す。
ああ、胃が痛い。キリキリと絞めつける腹部を撫でながら、行衣に身を包み、生命の滝へと重たい足を引きずる様に動かした。
生命の滝に向かう途中、木漏れ日が綺麗な獣道を覚束ない足取りで歩いていると、視界の端で何かが動く。
「…………ん? あ」
足を止め、目を凝らして見ると其処には小さく白い蛇がうねうねと動いている所だった。
だが、尻尾の先を大きな岩に挟まれたらしく、抜け出せないようだ。
神の領域に生物がいるのも驚いたが、蛇の美しさにも見惚れてしまう。