神様と愛語



心の中で溜息を吐く。




「まぁまぁ、そこらへんにしとこうよ、清蓮」



背後から柔らかい声。

現れたのは龍神の御供のもう一人、翠香(すいこう)だった。




「可哀想に。行衣の替えなんてあるだろうに」




声と同じような柔らかい笑みを持って、此方に近づくと憐れむような瞳を向ける。




「翠香! そう言う問題ではない。神聖な儀式の場に行衣を汚してくる事などあってはならない」

「だからお説教して、儀式を先延ばしにしてるの?」

「そ、れは。……人間は我々と違い間違いを繰り返す種族だ。二度とこのような事がないように説き聞かせなければならない」

「もう十分でしょう? ほら、行衣の替え持ってきたから、これに着替えなさい」




労わる様な優しい笑みを張り付け、翠香は新しい行衣を渡してくれる。




「御手を煩わせて申し訳ありません。有りがたく頂戴いたします」



深く礼をして、背を向ける。

目を合わせていられない。


はっきり言って、翠香が苦手だ。


きつく怒鳴り声を上げ、罵声を浴びせる清蓮よりも。

優しい声色、優しい顔。

だが、何を考えているか分からない。

腹の中では見下しているのに違いないのに、それを表に出す事のない様に仮面を被っている。

思考が読めない。

敵意を剥き出しにされていた方が楽だ。



滝の後ろで新しい行衣に着替え、再び、二人の前に立つ。




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