氷と風
「先生っ!」
「…何だ」
私が慌てているのは、彼の腕の中に閉じ込められているからである。
何故に、この状況。さっきまでは隣に座っていただけだったはずなのに。

その時私はハッとした。
私たちは学会を途中で抜けてきていたのである。
「ちょっとっ!まずいですって」
「どうして」
必死の反抗虚しく、彼は思いっきり私を"抱きしめて"いる。
この状況もかなり恥ずかしいが、私はとあるひとつのことが頭から離れなかった。

―先生が学会をサボっているという紛れもない事実。

「だっ誰かに見られたら」
しかもサボった挙句に女と抱き合っていたなんて知られたら…。
私だけじゃない。貴方のクビも飛ぶ。
そう言いかけた私に、信じられない言葉が降りかかってきた。
「私の気が触れたことにしておけ」
「はっ!?」
「どうせ普段から変人扱いだ。これくらいのことでは問題にはならない」
(…なると思う!)
そう言いたかったが、彼の言葉が私の耳元で囁かれたため、私の戦闘能力は見事に消えうせてしまった。



どうやら異国の温かい風は、永久凍土まで溶かしてしまったらしい。




【終わり】
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