氷と風
「白井君」
誰もいなくなったステージをぼんやり眺めながらそう考えていたとき、隣から声がした。
「あ、先生」
「あ、じゃない。何度呼べば気が付くんだ君は」
上月(こうづき)先生は少し不機嫌そうな顔をしながら私の隣の椅子に腰掛けた。
自分の助手が発表を聞いていなかったことに怒っているのだろうか。

ここは、とある有名大学の一番大きな講義堂。
今日は化学の-正直私にはよくわからない内容の-学会があって、こうして上月先生は呼ばれている。
(先生にスピーチさせるなんて、この大学の予算大丈夫なのかな)
上月は、彼が研究している分野においてはスペシャリストだ。まあ、今まで誰もその分野に関して研究してなかっただけなんだけど。
とにかく、若くして第一人者になってしまった彼は、あらゆる場所に引っ張りだこになってしまった。
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