腹黒王子に囚われて
 
拓先輩とあたしが、知り合うようになったのは
ある雨の日だった。


「あ、雨……」


委員会で遅くなって、帰ろうと昇降口を出ようと思ったら
ぽつぽつと降り注いでいる雨。

当時のあたしは、まだ両親と一緒に暮らしていたから、家はこの近くではなくて電車で5駅離れた場所。

空を見上げた雲は分厚く、これから雨の激しさが増すと読み取れたので、一度教室のロッカーへ置き傘を取りに帰った。


「これでよし、と……」


片手に折り畳み傘を持って、下駄箱からローファーを取り出すと、昇降口のドアに一人の男子生徒がもたれかかっていたことに気づいた。

その後ろ姿を見た瞬間、少しだけ緊張がはしる。



上沢先輩だ……。



さすがのあたしも、上沢先輩の存在くらいは知っていた。

学校一有名な人で、美咲や他の子たちも、上沢先輩がカッコいいと騒いでいる。
あたしもカッコいいと思っていたし、美咲たちのようにおおっぴらに騒ぐことはなかったけど、彼の姿の見つけるとなんとなく目で追うくらいはしていた。


少しだけ、ぼーっとその後ろ姿を見つめていると
そんなあたしに上沢先輩が気づく。



「お、お前も傘忘れ?」



上沢先輩は、振り向くと人懐こい笑顔を向けた。
 
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