腹黒王子に囚われて
 
本当は、すげぇ嬉しかった。

葵がこうやって、俺を待っていてくれたことが……。
一緒に帰れない日に、わざわざ自分の家にまで来てくれたこと。


だけど……



(アイツ……。

 いい声で鳴くだろ)



最悪な、あの男の声が俺の頭の中で囁いている。



「……どうしたの?」


なるべく平静を装って、葵に尋ねる。

葵は相変わらず、隠し切れない照れた顔で、


「べつに。用はないけど……。

 ちょっと会いたくて」


そんな嬉しい言葉を返してくれた。



そんなふうに言われたら、追い返すことなんて出来なくて……。



「上がって」



俺は自分の理性を保ちながら、葵を家に招き入れた。
 
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