腹黒王子に囚われて
無表情で答えるあたしに、瑛太は掴んでいた腕を放す。
自由になった体で、反転し、洗い物の続きをした。
「葵ってさー」
だけど、放したはずの瑛太は、真後ろに立ったまま。
「意外と、経験積んでたりするの?」
「……なんで?」
「だって、キスとかどうでもいいとかいうから」
「……」
洗い物が終わり、最後のお皿を水切り場に置く。
水道の蛇口を閉めて、タオルで手を拭いた。
「え、無視?」
急に何も答えなくなったあたしに、間抜けな瑛太の声が聞こえて
だんだんと苛立ってくる。
どうして男はこんなにも無神経なんだろう。
だから……
嫌いなんだ。
とくに、こんなふうに勝手にキスしても
怒られないと思っているような、カッコイイ男は―――。