腹黒王子に囚われて
 
「ってか、熱は?」

「おかげさまで。
 うまい飯と、薬のおかげで下がったみたい」

「……驚異の回復力だね」

「お前のおかげ」

「……」


文句の一つでも返ってくると思えば、そんな台詞。

それを言われたら、何も言い返せないじゃん。


「葵」

「んー?」

「キスしたい」


急に真顔になったと思いきや、またそんな言葉。

だからいちいちそれを聞かれたら、返答に困るんだって……。



「風邪、うつるんですけど」

「もう治った。
 それに、もし今度葵が引いたら、俺が看病しに行くから」

「……勝手にすれば」


これ以上答えようがなくて、つい突き放した言葉で返してしまう。

だけど瑛太は、ぐっとあたしの腕を掴んだ。
  
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