ヴァニタス
武藤さんと一緒にスーパーマーケットを後にした私が次に向かったところは、海だった。

「海、青いね」

武藤さんが言った。

そりゃ、青いに決まってるじゃない。

海がピンクや黄色だったら、気持ち悪いと思うけど。

「果南ちゃん、大丈夫?」

そう言って武藤さんは、私に自分の手を差し出した。

「えっと…」

この手を、私にどうしろと言うのでしょうか?

好きな人の手が目の前にあると言うシチュエーションに、私はどうしていいのかわからない。

武藤さんは私の躰を心配しているから、手を差し出しているに決まってるじゃない。

そう思っているのに…心臓はドキドキと、落ち着かないと言うように音を立てている。
< 106 / 350 >

この作品をシェア

pagetop