ヴァニタス
武藤さんは私の躰を心配しているだけだから…と、ドキドキと鳴っている心臓に言い聞かせる。

「果南ちゃん?」

私が自分の手をとらないことを不思議に思った武藤さんに名前を呼ばれた。

「…はい」

私は首を縦に振ってうなずくと、彼の手に自分の手を重ねた。

指先が触れただけなのに、私の心臓がさらにドキドキとうるさく鳴った。

武藤さんの大きな手が、私の手を包み込んだ。

「小さいね、果南ちゃんの手。

本当に女の子なんだね」

そう言った武藤さんに、
「…そう、ですか」

私は自分の頬が熱くなって行くのを感じながら、呟くように返事をした。

白い砂浜のうえに、私と武藤さんの足跡がつく。

そのうえを波がおおいかぶさって、私と武藤さんの足跡を消した。
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