ヴァニタス
私…さっきから武藤さんと会話ができていないような気がする。

そうですねの一言しか、武藤さんに返していないような気がする。

武藤さんともっと会話がしたい。

武藤さんのことをもっと知りたい。

そう思うことは簡単なのに、それを実行に移すことができないのは何でだろう?

りんごを弄んでいた手を止めると、武藤さんに視線を向けた。

武藤さんはりんごをかかげるように上にあげて、それを観察するように見つめていた。

「――武藤さん?」

何をしているんだろうと思い、私は武藤さんの名前を呼んだ。

「――えっ、あっ…ああ、どうしたの?」

名前を呼ばれた武藤さんはりんごを持っている手を下ろした。
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