ヴァニタス
どうして、武藤さんには隠し事ができないのだろう?

どうして、武藤さんには私の気持ちがわかってしまうのだろう?

「今はつらい時期かも知れない。

だけど…そのつらい時期を乗り越えたら、心の底から笑顔になれる日がくる。

だから今は逃げないで、一緒に乗り越えよう」

「――一緒に、ですか?」

聞き返した私に、
「果南ちゃんが乗り越えることに協力をする、って言う意味」

武藤さんは笑った。

私は手の中にあるかじったりんごを握りしめると、
「はい」

首を縦に振ってうなずいた。

――生きててよかった、って心の底から思った。
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