ヴァニタス
「そんなところで何してるの?」

そう聞きながら歩み寄った武藤さんに、
「アハハ、何していたんでしょう…?」

私はごまかすように笑って返した。

「えーっ、果南ちゃんもわからないの?」

「アハハ…」

私は、まだ武藤さんのことを知らないと思った。

私は武藤さんと一緒に暮らして、ご飯を作って、身の回りのことをしているだけ。

武藤さんは絵を描くこと。

絵を描くスピードが早いこと。

果物が好きで、グリンピースが嫌いなこと。

料理は本人曰く、あまり得意じゃないこと。

私が知っている武藤さんをあげるとするなら、たったこれだけだ。
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