ヴァニタス
さっきまであの腕に抱きしめられて、あの腕の中にいたんだな。

腕を動かしている武藤さんの姿を見ていたら、私の顔が赤くなっていることに気づいた。

…そりゃ、驚いたわよ。

名前を呼ばれて、キスされて…それだけならまだしも、抱きしめられて…。

「果南ちゃん?」

武藤さんに名前を呼ばれて、私はハッとしたように躰を起こした。

あっ、元の呼び方に戻ってる…。

昨日はちゃんづけじゃなかったのに…。

「果南ちゃん、具合悪いの?

顔が赤いよ?」

武藤さんは不思議そうに首を傾げると、私の顔に向かって手を伸ばしてきた。

「あっ、いえっ…そのっ…」

私は武藤さんの手から逃げるように、顔をそむけた。
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