ヴァニタス
朝の冷たい空気が、赤く熱くなった顔を冷やしてくれた。

同時に、熱くなった頭も冷たい空気によって冷やされて行くのがわかった。

「戻ろう…」

私は息を吐くと、今きたばかりの道を戻った。

武藤さんは、いつものように振るまった。

私も落ち着いて、いつものように振るまえば…。

そう自分に言い聞かせながら家についたら、
「俺はもう戻らないって言ってるんだ」

武藤さんの声が聞こえた。

えっ、何?

武藤さんの前に、誰かがいることに気づいた。

「あっ」

その人物に、私は思わず声を出してしまった。

慌てて手で口をおおった。

…よかった、武藤さんには気づかれていない。

ホッと胸をなで下ろしたのと同時に、私はもう1度武藤さんの前にいる人物に視線を向けた。
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