ヴァニタス
――その不安に怯えながらも、絵を描くことによって生きることを切望している俺は、どうしようもない弱虫だよ

武藤さんは弱虫じゃないんだよ。

武藤さんは強い人なんだよ。

生きるために絵を描いている、強い人なんだよ。

「――果南ちゃん!?」

武藤さんが私の名前を呼んだと言うことは、私の存在に気づいたんだと思った。

クロエさんは私の顔を見て驚いた顔をした後、慌てて手で口をおおった。

今の自分たちの会話を、まさか私が聞いていたとは思いもしなかっただろう。

武藤さんはあきらかに動揺していた。

それは私が泣いていることなのか、会話を聞かれてしまったことなのかは、よくわからないけど。

クロエさんは私に頭を下げると、
「あっ、おい!」

その場から逃げ出した。
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