ヴァニタス
クロエさんの後ろ姿が見えなくなると、
「――果南ちゃん、もしかして全部聞いていた?」

武藤さんが私に質問した。

私は口で答える代わりに、首を縦に振ってうなずいて答えた。

武藤さんは悲しそうに眉を下げると、
「――果南ちゃんには、聞いて欲しくなかったな…」
と、呟くように言った。

「――えっ?」

そう呟いた武藤さんに、私は驚いて視線を向けた。

「どうして、ですか…?」

どうして、私は聞いちゃダメなの?

そう聞こうと口を開いた私に、
「果南ちゃんには、知らないままでいて欲しかった…」

武藤さんが言った。

知らないままでいて欲しかったって…どうして?

「どうして、なんですか…?」

そう聞いた私に、武藤さんは私の頬に向かって手を伸ばした。
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