ヴァニタス
その手は、まだ頬に残っている涙を丁寧にぬぐった。

「――私…」

出そうになった言葉を飲み込んだ。

「どうしたの?」

首を傾げた武藤さんに、
「いえ…」

私は首を横に振った。

――私は、武藤さんに信用されていないんですか?

こんなことを言ったら、武藤さんは迷惑に思うかも知れない。

どうして、私に聞かれたくなかったの?

どうして、私に知られたくなかったの?

私、武藤さんが考えていることがわからないよ…。

武藤さんが好きだからどんな小さなことでも知りたいのに、武藤さんは隠そうとする。
< 165 / 350 >

この作品をシェア

pagetop