ヴァニタス
私の質問に、クロエさんは驚いたと言う顔をした。

「あなた、本当にムトウのことを何も知らないのね」

クロエさんに言われた私は何も返すことができなかった。

「…何にも、知りませんよ」

呟くような声で、私は言った。

「絵を描くことを職業としていて、好きな絵のジャンルはヴァニタスで、グリンピースが嫌いなこと以外、私は武藤さんのことを何も知りません」

最近は武藤さんが病気だったことを、私は知らなかった。

口を閉じた私に、
「――ミュージシャンとマネージャー」

クロエさんが言った。

「えっ?」

そう言ったクロエさんの言葉の意味がわからなくて、私は聞き返した。

クロエさんは、
「さっきのあなたの質問に答えたの。

私とムトウはどう言う関係だったかって、さっき聞いたでしょう?」
と、言った。
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