ヴァニタス
クロエさんは笑うと、
「返さなくてもいいって言ったでしょう?」
と、言った。

「でも…」

そう言った私に、
「ハンカチはたくさん持っているんだから、1枚くらい誰かにプレゼントしたって平気よ」
と、クロエさんは返した。

「そうですか…」

呟くように返事した私だったが、ふと気づいた。

「えっと…クロエさんも、お買い物ですか?」

質問した私に、
「ええ、そうよ。

この辺りの民宿でお世話になっているんだけど、散歩がてらお買い物にきたの」

クロエさんが答えた。

「民宿、ですか?」

てっきりホテルで暮らしているのかと思っていたから、クロエさんが民宿にいることが意外だった。
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