ヴァニタス
そんな私の頭の中を読んだと言うように、
「ここはホテルらしきところなんてないじゃない。

私がよく見ていないだけなのかも知れないけど」
と、クロエさんが言った。

「えっ、そうなんですか?」

この町って、ホテルがないんだ…。

聞き返した私に、
「知らなかったのは仕方がないわ。

この町に住み始めてから、まだ日が浅い方なんでしょう?」

クロエさんが言った。

「えっと、そうですね…」

私は首を縦に振ってうなずいた。

この町にきて武藤さんのところで住み始めてから何日が経ったかは自分でもよくわからないけど、この町にはまだまだ私の知らないことがたくさんあるみたいだ。
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