ヴァニタス
人間には、誰だってプライドがあるのかも知れないと思った。

私もそうだった。

ストーカーされていることを家族や友人に相談することができなくて、自分から連絡を絶つのは彼らを守るためだと何度も自分で言い聞かせて、悪魔から逃げ回っていた。

だけど本当は、彼らにストーカーされていることを知られたくなかった。

お前が悪いんじゃないか、お前の勘違いじゃないかと、彼らから言われることが怖かった。

私の言うことを彼らは信じてくれないんじゃないかと思っていた。

友人のエピソードを理由に警察へ相談できなかったのも、私の中のプライドが邪魔をしたからだ。

だけどそんなプライドは、武藤さんが壊してくれた。

――俺が警察に行って、果南ちゃんが理不尽なストーカー被害に遭っていることを伝えに行く

――行かなきゃ、果南ちゃんはまた自殺しようとするじゃないか!

武藤さんが壊してくれたから、私は生きていることができるのだから。
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