ヴァニタス
「ムトウはあなたに心配をかけたくない、あなたに迷惑をかけたくないって思っているのかも知れないの」

そう言ったクロエさんに、
「それが、武藤さんのプライドなんですか?」
と、私は言った。

クロエさんが口を閉じたところを見ると、それは肯定と言うことなのだろう。

「じゃあ…」

私は口を開いた。

「どうして武藤さんは、私を自分のそばに置いたんですか?」

クロエさんは立ち止まると、私を見つめた。

私も立ち止まって、クロエさんを見つめた。

「自分のせいで心配をかけたくないなら、迷惑をかけたくないなら、私を自分のそばに置く必要なんてなかったと思います。

そんなプライドがあるんだったら、私のことなんて放って置けばよかったと思います」

「どうして、そんなことを言うの?」

クロエさんが訳がわからないと言うように聞き返した。
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