ヴァニタス
そうだ…。

そうだよ…。

どうして私は、こんな簡単なことに気づくことができなかったのだろう?

武藤さんが私を助けたように、今度は私が武藤さんを助ければいい。

武藤さんが私のプライドを壊したように、今度は私が武藤さんのプライドを壊せばいい。

気づくことは簡単なことだったはずなのに、どうして私は気づくことができなかったんだろう?

空いてしまったこの距離を埋めるためには、私から武藤さんに歩み寄ればいい。

こんなにも簡単で小さなことに、どうして私は気づくことができなかったんだろう?

「あなたは、ムトウのことが好きなんでしょう?

ムトウのことが好きなら、自分からムトウに手を差し出して、自分からムトウに歩み寄りなさい。

あなたがムトウを助けたのは、ムトウも誰かに助けてもらいたかったのかも知れないわ」

「――ッ…」

私はクロエさんの言葉に、首を縦に振ってうなずいた。
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