ヴァニタス
「じゃあ、私はここで帰るわ」

家まで後数メートルと言うところで、クロエさんはそう言って立ち止まった。

「えっ、武藤さんに会いに行かないんですか?」

そう言った私に、
「私がいたら、あなたとムトウの邪魔になってしまうでしょう?

ムトウを助けることができるのは、あなたしかいないのだから」

クロエさんが微笑みながら言った。

「はい…」

首を縦に振ってうなずいた私に、
「じゃあ、また会えたら」

クロエさんが背中を見せた。

「…さようなら」

彼女の背中に向かって、私は声をかけた。

クロエさんの姿が見えなくなると、私は深呼吸をした。

大丈夫、私は武藤さんを助けることができる。

自分自身に言い聞かせた後、私は家の前へ向かった。
< 212 / 350 >

この作品をシェア

pagetop