ヴァニタス
ドアを開けたとたん、フワリと油絵の具の匂いが漂った。

「ただいま帰りました」

そう言ってドアを閉めた後、私はリビングへ足を向かわせた。

「おかえり」

武藤さんは私に声をかけてきた。

「あっ…」

キャンバスに視線を向けたとたん、私は気がついた。

「もう完成したんですね…」

そう言った私に、
「これでも時間はかかったんだけどね」

武藤さんは笑いながら言った。

キャンバスに描かれていたのは、青い海だった。

波打ち際にあるのは髑髏、少し離れたところにあるのは真っ赤なりんご、そして灰色の砂が入った砂時計だった。

確かこの絵の構想は、私たちが警察へ行った帰り道に海で武藤さんが話していた構想だ。
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