ヴァニタス
満月が輝く夜に
濡れた髪をバスタオルで拭きながら、私はリビングへと足を向かわせた。

先にお風呂に入った武藤さんは窓の前に立って、そこから空を見あげていた。

私は彼のところへ歩み寄ると、
「武藤さん」

声をかけた。

「ああ、果南ちゃん」

武藤さんが私の名前を呼んで、私の方へ振り向いた。

「何を見てたのですか?」

そう聞いた私に、
「月だよ、今日は満月だった」

武藤さんは答えた後、また窓の外へと視線を向けた。

彼のマネをするように私も窓の外へと視線を向けると、黒い夜空を飾るように銀色の満月が浮かんでいた。

早いな、この前は三日月だったのに…。
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