ヴァニタス
そう思った私に、
「久しぶりだから、どうすればいいのかわからないんだ」
と、武藤さんが言った。

「もちろん、優しくする」

そう言った武藤さんに、
「武藤さん」

私は彼の名前を呼んだ。

「好きです」

そう言った私に、
「俺も、果南ちゃんが好き」

武藤さんが私の唇に自分の唇を落とした。

彼のぬくもりを躰に覚えるように、私は目を閉じた。

武藤さんの両手が私の背中に回ったのと同時に、私も彼の背中に両手を回した。

唇を離して、お互いを見つめあって、また唇を重ねる。

それだけのことなのに、私の頭の中は嬉しさでいっぱいだった。
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