ヴァニタス
私は目を開けた。

…いつの間に眠っていたのだろう?

そう思ったのと同時に、私は腕の中にいることに気づいた。

私を抱きしめている腕の持ち主に視線を向けると、武藤さんだった。

「――起きた?」

私と目があった瞬間、武藤さんが言った。

「――あ、はい…」

私は首を縦に振ってうなずいた。

武藤さんの顔を見て、武藤さんの言葉に答えただけなのに、私の心臓がドキドキと音を立てて鳴り始めた。

そうだ…。

私は、さっきまで武藤さんに抱かれていたんだ。

外はまだ夜なのか、窓の外から月明かりが差し込んでいた。

差しこんでいるその月明かりは、まだ武藤さんの顔を青白く照らしていた。
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