ヴァニタス
「あの時、崖から飛び降りようとしていた果南ちゃんが天使に見えたんだ」

武藤さんが言った。

「て、天使ですか?」

私は驚いて聞き返した。

自殺をしようとした私が天使に見えたって…そうだ、武藤さんは変わった人だと言うことを忘れていた。

「うん、天使。

今にもそこから空へ向かって飛び立っていきそうだった」

…表現的には間違っていないと思った。

事実、私は崖から飛び降りて空へ向かって飛んで行くところだったのだ。

「そう思った瞬間、この子を止めなきゃって思ったんだ。

あの時は果南ちゃんを助けないと、もう2度と果南ちゃんに会えないような気がしたんだ」

振り返るように言った武藤さんに、
「それで、私が自殺するのを止めたんですか?」
と、私は聞いた。
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