ヴァニタス
砂浜にいるはずなのに、波の音が聞こえない。

と言うよりも、私たちの周りの音が消えてしまったような気がする。

この世界にいるのは、私と武藤さんの2人だけ――そんな風に思ってしまった。

「果南」

武藤さんに名前を呼ばれて、私は彼の顔に視線を向けた。

私の名前を呼ぶその声が好き。

私を見つめるその瞳が好き。

「――ッ…」

武藤さんの唇が私の唇に重なった。

私は彼の唇の感触を覚えるように、そっと目を閉じた。

私にキスをするその唇が好き。

抱きしめているその躰も、私の躰に回しているその腕も好き。

武藤さんの全てが好き。

彼の唇が私から離れても、私たちはお互いの躰を抱きしめていた。
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