ヴァニタス
武藤さんは大事なものを守るように、私の背中に両手を回して抱きしめた。

「――武藤、さん…?」

名前を呼んだ私に答えるように、武藤さんは私を抱きしめているその腕を強くした。

「――やめろ…」

悪魔の声が震えている。

「――果南から離れろ…」

悪魔の顔が青くなって行く。

武藤さんは私を強く抱きしめている。

「――俺の果南に気安くさわるんじゃねーよ!」

大きな声で叫んだ悪魔に、私の躰がビクッと震えた。

「――大丈夫だ」

震えた私を慰めるように、武藤さんがささやいているような小さな声で言った。
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