ヴァニタス
コンコン

病室のドアをたたく音がしたので、
「はい」

私はドアに向かって声をかけた。

「失礼します」

そう言って病室に入ってきたのは、スーツを着た中年男だった。

「あっ…」

彼に見覚えがあった私は呟いた。

入ってきた中年男は、私が武藤さんと一緒に警察署へ行った時に話を聞いてくれた人だったからだ。

中年男は私たちの前にくると、
「お久しぶりです、容態の方はいかがでしょうか?」
と、頭を下げた。

「ええ、おかげさまで」

武藤さんは中年男に向かって笑いかけた。
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